ここはカノヨ街。人と妖が入り混じる街。
ゆえに体躯も大小どころか形まで含めて様々で、この街の店という店は往々にして広めの造りをしているだけでなく、食事処なら椅子や食器も大きさや形で複数種類用意されている。
例えば椅子なら、座面が広くなっているものとか、足が長くなっているものとか。
「ん~! ほいひぃなぁ!」
それを単純に配慮だと取るか、様々な形の生き物が居る街での商売繁盛のための戦略と取るか、というのはひとによるところだろうが、その恩恵に預かっている者が身近に居るユウヅキの感想は「商売も大変だな」という一言に尽きる。
たっぷりいちごバニラくりぃむパフェ。だったか。
何かと言えば、向かいの席の小さな天邪鬼が目を輝かせて頬張っている甘味の名前だ。
足の長い――人間で言う幼児向けの――椅子に更に分厚いクッションを敷いた所謂小物妖怪向けの椅子に座って、長いスプーンを駆使して食べ進める様子は、なかなか微笑ましいものである。口元にクリームがついているのを、その隣の幽霊は気付いているがきっと何もしないのだろう。まあユウヅキも今のところは手を出さないが。どうせまたつく。
のんびりと眺めていれば、ふ、とパフェから顔が上げられた。目が合う。
「んむっ。どうしたユウヅキ、儂のパフェが羨ましくなったのか?」
「韻はよく食べるな、と思ってただけだよ。おれはこれで良い」
「そうか? お主は少食……いや、いつも何かしら食っておるか」
「お菓子配ってる張本人ですもんねェ、ユウヅキサン」
くすくすと韻の隣、こちらはわらび餅をつついていた淺が笑う。少食なのはどちらかと言えば淺の方だ。菓子より飯よりも酒の方を好む幽霊なのだから。かくいうユウヅキはこの店では数少ない洋食に分類されるコーヒーゼリーをちまちまと食べている。
ユウヅキの隣でまったりと緑茶を啜っていた黒星が、湯飲みからフォークへと持ち替えながら口を開いた。一席ごとに広めの空間を確保されているとはいえ、さすがに数の多い腕のほとんどは外套の内側で、コレクションたちと共にひっそりと息を潜めている。
「一番食ってるのは韻だろうよ」
「む、儂か? しかし美味なものは美味なのだ、我慢なぞするものではない!」
「それは自分も同意です、やっぱり何だって楽しんでなんぼでしょう」
「そういう意味じゃ俺もそうだが、体積のわりに食ってるのは韻だろ。もっとまるっこくなるんじゃねえか?」
「ふっふっふ、ならばお主より大きくなっていつぞの借りを返してやろう、黒星!」
「いつぞのっていつのだ……?」
フォークで切り取った黒糖カステラを口に運びつつ、黒星はかくりと首を傾げた。心なしか斜め上を向いて、本気で考え込んでいるようにも見える。同時にユウヅキも最近の記憶を思い返した。黒星は体格もあり、特に小さい韻とは日常的にあれこれある仲なのだ。
踏んだ踏まれたはちょこちょこあるし、外套の内側の仲間入りをするしないでもひと悶着あるのは見慣れたやり取りである。冗談なのかそうでないのかは黒星のみぞ知る。
しかしそんな両者と常に一緒に居るわけでもないユウヅキでも、一体どの時の話か見当がつかなかった。なぜって両者が揃っている時なら大体借りとやらになりそうなことが起こっている。韻からして特に怨念を抱きそうなもの、と考えてもさっぱり分からなかった。
「思い当たる節が多すぎて分からないんじゃないか、黒星」
「だな」
「ぐぬぬ~……!」
「アイス溶けるぞ、韻」
「はっ! 儂のアイス!」
話を逸らしてやれば、見事なまでに韻の意識はパフェに戻っていく。横の淺は笑いを堪えているせいで震えていた。黒星はと言えば慣れた様子で黒糖カステラをつまんでいる。いつものことだ。ユウヅキもコーヒーゼリーに意識を戻した。
フレッシュミルクを絡めつつ、ほんのりと光で香ばしさを感じる色を透けさせるゼリーを咥内へ。つるりとした舌ざわりに、コーヒーの風味がふんわりと抜けつつ、味はミルクのおかげでまろやかになっている。小分けの菓子では味わえない感覚だ。ふっと何かが緩むような感覚がする。
ほどほどに騒がしく、だからこそ気が抜けすぎることもない。知り合いというと遠いが、友と言っていいのかどうかは、ユウヅキには分からないけれど。
ここはカノヨ街。人間も妖怪も、様々なものが混じり合う街。
こうして集まる中に人間こそ居ないが、きっとこんな街でなかったら出会うこともなかっただろう面々だ。そんな僅かな奇跡に恵まれたここは確かに居心地が良くて、幸せな場所だった。
「そういや、そろそろ祭りの時期ですよねェ。皆さんも参加なさるんです?」
とおく、まだ聞こえない場所で、じりじりと音がしている。
2022.9.5
