なくさないように握って

なくさないように握って

 鍾離が北国銀行を訪れる理由の半分は仕事、半分はプライベートだ。
 だから最近は鍾離が北国銀行を訪れると、ロビーで待っていれば仕事、そそくさとスタッフに声をかけに来たならプライベート、とスタッフ側も学んだらしく、鍾離が来れば手が空いているスタッフが近寄ってくるほどだ。
 今日はプライベートな用事で銀行を訪れたところで、普段よりも銀行内が緊迫感に包まれていることに気付いた。
 さっと視線を走らせて状況を確認すると、なにやら客の一人が宥めるスタッフに食いかかっている。璃月様式の豪奢な建物内に男の怒鳴り声が響き、対応しているスタッフ以外のスタッフたちはバタついており、他の客たちは関わりたくないと言わんばかりにひっそりしていた。
 いつもは新たな客が来れば即座に視線を寄越すスタッフは、今日ばかりは一人も居ない。鍾離に気付かないというよりは、気付いていても他のことに必死、という方が正しいだろう。この状況ではそれも仕方あるまい。鍾離も風景の一部に溶け込むように息を潜める。
「お前たちが手を引いたから立ち行かなくなったんだ! アイツを支援していた俺の立場はどうなると思ってる?!」
「ですから先ほども申し上げました通り、詳しいお話は担当者が応接室でお聞きしますので奥でお待ちくださいと」
「担当者なんて言ったってどうせ上の言いなりだろう!? ここに預けてる俺の資産を全て移してもいいんだぞ!」
 鍾離は腕を組んだ。張り上げられた声は広い空間によく響くため、会話内容はわざわざ聞こうと思わずとも耳に飛び込んでくる。資産家の男と、その男が支援していた――おそらくは失敗した事業と、それに金を貸していた北国銀行、という図らしい。
 事業が失敗した結果北国銀行が手を切ったのか、北国銀行が手を切ったから事業が失敗したのか、というところだろうが、間違いなく前者だろう。あるいは北国銀行と結んだ契約に違反があり、北国銀行によって切り捨てられた可能性もある。
 例え宝盗団であろうと金を貸す北国銀行だが、契約に違反しない限りは相応の扱いをするのが彼らなのだ。後ろ暗かろうと銀行は銀行である。理由もなく、自分たちに過失が降りかかるような契約の打ち切り方はしない。
 男の方はスタッフの話を聞くつもりはないようで、どれほどスタッフが促そうと「責任者をここに出せ」という旨を不満と共に怒鳴り散らすばかりだった。スタッフ側も客に手荒な真似が出来るはずもなく、男を必死に宥めるしか手段がない。
 このままでは埒が明かなさそうだが、どうするつもりなのだろう。鍾離は高みの見物をしているが、他の客にとっては騒がしい上に空気もひりついていて、居心地は最悪なはずだ。例の騒動の影響を拭いきれていない北国銀行としては、これはある意味でスタッフたちの手腕の見せ所でもある。
 敵地である璃月で、彼らは一体どのように立ち回るのか。
 北国銀行を訪れた理由を後回しにして、鍾離はこの事態の収束まで静観することを決めた。
「――大変お待たせ致しました、お客様」
 ばたばたと慌てた様子のスタッフがバックヤードに繋がるドアから飛び出してくる。それと同時、そのドアの奥から若い男が早足で姿を現した。ひらりとストールが靡いて金魚のように尾を引く。
 ほう、と鍾離は顎に手を当てた。責任者という意味では、これ以上のものはない。怒鳴り声を止めた男は現れた彼の方を見る。北国銀行を利用していたとして、彼の名や肩書きと、彼の外見が合致するものはそう多くない。
「なんだ、若造じゃないか」
「青二才の身ではありますが、璃月におけるファデュイの最高責任者を務めている『公子』タルタリヤです」
 聞き慣れない敬語を使うタルタリヤは、にこやかな笑みで男へそう言った。男の口があんぐりと開かれる。先ほどまで必死に男を宥めていたスタッフよりも若い外見の人間が最高責任者――それに外交官の権限も持つファトゥス第十一位なのだとは、到底信じられまい。
 対応していたスタッフが男の死角で思わずほっと息を吐いたのを、ちらりと一瞬だけ向けられたタルタリヤの視線で叱られてすぐさま姿勢を正していた。
「お、お前が、例の(・・)?」
「例の、という言葉が一体何の話を示すか分かりかねますが、私以外にファデュイの『公子』は居りませんよ」
 たたっ、と足音がする。開け放たれたままだったドアからまた別のスタッフがタルタリヤに駆け寄った。
「なに、取り込み中だよ」
「申し訳ありません公子様、この件の担当者は私です」
「ああ、じゃあちょうど良い。外回りから担当者が戻ってきましたので、応接室の方でお話しましょう」
「……公子、スネージナヤの……ファデュイの」
 あくまで下手に出るタルタリヤだったが、男の方はと言えばもう話が耳に入っていないようだ。反応のない男にタルタリヤが一瞬目を細めると同時、担当者だというスタッフを手で制す。
 男はわなわなと震えていた。例の、と男が匂わせたことに関しても、口ではああ言いつつタルタリヤとて察しがついていただろう。璃月で公子と言えば、真っ先に結びつく噂がある。かなり和らいできてはいるものの、岩王帝君の統治の長さは信仰の深さにも繋がっていた。
 熱心な信者であったのだろう。冷静でなかったところに、岩王帝君暗殺の噂が立っていた件の公子が出てきたとなれば、それは火に油だ。最早男には先ほどまでの怒りはなく、また別種のものがその思考を占めている。
 男の手が自らの服へ、その懐へと伸びた。目の前でそれを間違いなく見ているタルタリヤは、しかし微動だにせず男の行動を眺めている。傍目から見れば愚かしく映っただろう。野次馬と化していた他の客たちが身を縮ませた。
 鍾離は顎に手を当てたまま、タルタリヤの選択を見る。
「お前が――岩王帝君を!!」
 懐から現れたのはぬらりとした銀色だ。美しい刃を力任せに振りかぶり、男はタルタリヤに襲い掛かった。
 宥めていたスタッフはぐっと拳を握り、手で制されていた担当者は唇を噛む。彼らは今まさに襲われんとしている上司を守ろうと動くわけでも、声を上げるわけでもなく、ただ男とタルタリヤの行動を見ていた。
 きゃあ、と客たちが叫び、動揺が広がる。しかしスタッフたちは平静を失っていなかった。銀行スタッフとはいえファデュイはファデュイ、ということだろう。それか武人として大陸に名を馳せる上司を信じているのか。
 当のタルタリヤは、動揺した素振りなど見せず、振りかぶられる刃を見ていた。動き方からして明白に素人である男を見て何を思ったか知らないが、タルタリヤはにこやかな笑みを消し去って――左手を持ち上げた。
「――ッ、な?!」
 振りかぶられた小刀は、タルタリヤの手に掴まれている。男は柄を握ったまま目を見開き、タルタリヤを凝視した。タルタリヤは男に一切触れていない。光を照り返していた刃の銀色は、黒い手袋に覆われていた。客の誰かがまた叫ぶ。
 男の腕や手首を掴むなり、そのベルトについている神の目で水元素を操ってシールドを張るなり、水元素の刃を作り出して受け止めるなり、そうでなくとも刃を避けることなど容易だったはずだ。
 しかしタルタリヤは回避行動を一切取らず、けれど男の身体に触れることなく、その小刀の刃部分を掌で受け止めた。手袋が吸い切れなくなったのだろう赤い液体が、タルタリヤの白い腕を伝っていく。
「穏便に、と言ったところで腹の虫は収まらないのでしょうが――他のお客様のいらっしゃる前ですので、どうか」
 ここで収めてはいただけませんか、とタルタリヤはにこりと笑った。一切の感情が削ぎ落とされていたかんばせに浮かべられた笑顔に、確かにタルタリヤを傷つけた側であるはずの男の顔から血の気が引いていく。
 思わず男が小刀の柄から手を放せば、刃を握ったままだったタルタリヤに小刀の主導権が渡った。刃側を握ったまま手を下ろしたタルタリヤは、言葉を失っている男に更に言う。
「担当者も居りますから応接室で詳しい説明も出来ますが、如何いたしますか?」
「……か、かえら、せてくれ」
「承知しました」
 刃を握ったままの左手から、手袋でその血を拭うようにしながら小刀を抜き取り、タルタリヤは傍に居た担当者にそれを渡した。担当者の方はまだタルタリヤの血が薄らと付着している刃部分をハンカチで包み、男へと手渡す。
 血まみれの凶器をそのまま返されるよりは良いだろうが、あんな真顔で片手を犠牲にして受け止められては生きた心地はするまい。小刀の振るい方さえなっていない素人であれば尚のこと。
 ハンカチごと小刀を受け取った男は俯いて、掌の上のそれを見つめていた。その顔色は紙のように白い。タルタリヤは宥めていた方のスタッフに指示する。
「こちらのお客様をお送りしろ。罷り間違っても傷つけるなよ」
「はっ」
 担当者にもその補助をするように指示し、意気消沈した男をスタッフと担当者に任せたタルタリヤは左手を握りこんだまま他の客たちの方へ向き直り、すっと頭を下げる。
「申し訳ありません皆様、お騒がせ致しました」
 顔を上げてまたにこりと笑うと同時、タルタリヤの目が静観していた鍾離を捉えた。今まで気付いていなかったらしく、一瞬鍾離に気を取られたタルタリヤに今度は鍾離の方が笑ってしまう。場の把握など染み付いた癖でしているはずなのに、今回は隅に居た鍾離にまでは意識が回らなかったようだ。
 だが他の客の手前、怪我もしているからか鍾離に対して何かアクションを起こすわけでもなく、タルタリヤはバックヤードに繋がるドアへと向かっていく。一連の騒ぎを静かに眺めていた鍾離は、ようやく本来の目的のためにもその背中を追いかけた。
 他のスタッフたちもそこでようやく鍾離の存在に気付いたらしい。タルタリヤと共にバックヤードへ向かう鍾離に僅かに頭を下げ、本来の業務へと戻って行く。
 ドアさえ閉めてしまえば、ロビーとバックヤードは隔絶される。鍾離がついてきていることが分かっているはずだが、足を止めそうにないタルタリヤに声をかけた。
「随分と無茶なことをしたな」
「この程度が無茶なものか。確かにナイフは凶器だけど、ずぶの素人相手じゃ容易いよ」
「ならば掌で受け止める必要はなかったと思うが」
「言ったろ、傷つけるわけにはいかなかった。俺はファデュイの執行官だけど、彼ら利用客にとってはこの銀行の責任者だ。正当防衛だろうがやるべきじゃない」
 歩きながら、タルタリヤは固く握り締めていた左手を開いた。鍾離もそれを覗き込めば、手袋はすぱりと断ち切られており、ぱっくりと開いた傷口がよく見える。タルタリヤが身につけている手袋は頑丈で、刃の類にも強い材質だったはずだが、鮮やかなものだ。
「でもさすが資産家だ。業物だね」
「笑い事じゃないだろう」
「うん、かなりざっくり、まあ切り口が綺麗なのは不幸中の幸いだよね……ああ、気を抜くと出血が酷くなりそうだな。治癒能力持ちって今日出勤してたっけ……」
 鍾離の言葉に応えているような応えていないような曖昧な口調でぶつぶつと呟きながら、どうやら普段使っている執務室に向かっているらしい。鍾離がずんずんと進むタルタリヤの肩を掴めば、足を止めて振り向いたタルタリヤはきょとんとした顔で、とてもではないが掌を負傷しているとは思えない表情だった。
 呻き声ひとつなく、表情には歪みの欠片もない。間違いなく痛みはあるはずだというのに。
「手を」
「え? なに?」
 疑問符を浮かべつつ、鍾離が手を差し伸べればタルタリヤは左手を出した。傷口を刺激しないよう、小指に嵌った指輪を引き抜き、手袋を慎重に脱がせながら鍾離は言う。
「治療というほどではないが、応急処置なら可能だ。自分で出血を抑え続けるより楽になるだろう」
 肉の色どころか探せば骨さえ見えるのではというほど派手に口を開いた傷からは、戦闘中にタルタリヤからよく感じる元素力の気配がしている。水元素の神の目を持っているため、自力で元素を操って出血を抑えていたのだろう。常に流れ出るものを押し留めようとするなど器用なことだ。
 その傷口を覆うように自身の掌を重ねて、岩元素を呼び起こす。切り口が潔いほどに綺麗だったからこそやりやすかった。ぱっくりと分かれた肉同士を合わせ、固定するように岩元素で包み込む。
 簡易的ではあるが、磐石のオイルよりも更に頑丈な応急処置の完了だ。
「岩元素、便利だね」
「技術的には公子殿がやっていた止血よりも簡単だろう。治癒能力持ちは出勤しているのか?」
「うん。記憶違いでなければね」
 血で汚れているものの、傷口は塞がったし出血も止まっている。掌を開いては閉じてを繰り返し、ありがとう、とタルタリヤは鍾離に感謝した。

 他のスタッフから事情を聞いていたのだろう、執務室の前で先に待機していた部下に治療してもらったタルタリヤは、応接用のソファに身体を預けている。その向かいのソファに座った鍾離は、血の汚れを落とした真っ白な左手を見ていた。
 駄目にしちゃったなあ、と派手に穴が開き血で赤黒く染まった手袋をゴミ箱に放り込んでいたため、タルタリヤの左手は素手だ。替えはあるそうだが、執務室ではなく寝泊りしている部屋の方にあるとのことである。
 部下による治療の後、あの男を無事に送り届けたというスタッフと担当者の報告までしっかりと同席していた鍾離に、タルタリヤがようやくといった様子で声をかけてくる。
「ちなみに先生はいつまでここに居るの? 面白くない現場を見せたことは謝るし、応急処置も助かったけど」
「……ああ」
 元々北国銀行を訪れた目的をまだ達成していないから、という理由もあるが、鍾離がずっとこの場に残っていた理由はもう一つあった。手袋こそ血で汚れていたからという理由でタルタリヤの手に攫われたが、鍾離の手元にはまだ忘れ物があったのだ。
 応急処置のために手袋を外そうとして、その時に引き抜いて掌のうちに握りこんだままだったタルタリヤの指輪である。
 それを掌の上でこれ見よがしに転がせば、ぱちぱちと瞬きしたタルタリヤが自らの左手を見た。まっさらな手には何の装飾もない。
「さっき一緒に外してたね、ごめんごめん、それは俺の方が忘れてた」
 そのまっさらな左手を出して指輪を渡すように促すタルタリヤに構わず、鍾離はソファから立ち上がった。不思議そうな顔をして見上げてくるタルタリヤの横へと移動し、その掌に指輪を置くのではなくその手を取って裏返す。
「え? せ、先生?」
 シンプルな銀の指輪をその小指に手ずから嵌めて、鍾離はタルタリヤの手を放した。されるがままだったタルタリヤは小指に収まった指輪をしげしげと眺め、鍾離をちらりと見る。
「……至れり尽くせりだね。俺の十八番かと思ってたけど違ったみたいだ」
「ふ。この程度でそう言われるとは、公子殿は欲が薄い」
「誰かになにかして欲しい、という意味では確かにそうかもな。まあ助かったよ」
 普段、手袋の上から嵌めている指輪は、素手には些か緩そうだった。ともすれば落としてしまいそうな指輪を、薬指を使ってすり抜けていかないように固定することにしたらしい。隣に座った鍾離を見て、それで、とタルタリヤは首を傾げた。
「で、結局本当は何の目的で銀行に来てたの?」
「公子殿に、食事はどうか、と」
「本当にタイミング悪かったんだね……俺は構わないけど、またああいうのが絡んでくるかもしれないよ?」
「俺との食事の場はプライベートだろう」
 公的な場ではない以上、タルタリヤが対応に出る必要性はない。ならば先ほどのように気を遣わなくとも良いだろう。本来タルタリヤは武芸に秀でており、その辺りの用心棒など容易く押さえ込めるだけの能力がある。
 そうでなくとも多少ならば口で丸め込めもするのだから、あのような対応をすることなど稀なはずなのだ。
 鍾離の言葉にタルタリヤは口を引き結んだ。こめかみを抑え、はあ、と溜め息を吐く。
「……それはそうだけど、俺たちの実態を知っててそれを言うんだから、先生も良い性格をしてるよね」
「そういった側面もあると知って契約を結んでいるのだろう。元より互いに条件を呑んで結んだ契約を履行しないならば、しない側に非がある」
「ああ、そう。一日で何度も絡まれるとは思いたくないけど、先生が良いなら俺も構わないよ」
 じゃあ仕事片付けるから待ち合わせ場所だけ決めようか、とタルタリヤは途中で放り出さざるを得なかったらしい執務机の方を指差して笑った。

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 食事も終えて店を出た後、二人とも向かう先を明確にしなかった。
 夜の帳も下りて暫く経っていて、璃月港の道行く人々も数が減ってきている。市場が眠れば店も眠りにつく。そうして夜明けと共に市場が目覚め、街は活気付くのだ。港全体が眠りへ向かう時間帯は、暗さも手伝って自分のこと以外が目に入らない者ばかりだった。
 そんな中で、鍾離もタルタリヤも言葉を交わすことなく、僅かに歩調を緩めて歩いていく。どちらの部屋に向かうとも、各々の部屋に帰るとも、はっきりとは決めないでただ歩いていた。
 刃を掴んだのがそもそも左手だったこと、優秀な部下によって完璧に傷が治されたこともあって、タルタリヤは箸や食器を持てずに困ることもなかった。まだ箸は右手でしか使えないんだよね、と笑うタルタリヤに左手も練習したらどうかと言ったが、無茶言わないでよと返されてしまった。
 右手は手袋をしたまま、左手は素手のまま、時折落ちそうになる指輪を気にしながら、タルタリヤは普段通りに食事して、会話をして、そうして今に至る。
 鍾離も北国銀行での一件に触れなかったからだろう。タルタリヤの左手だけが素手だった以外、普段と何一つ変わりない食事だった。
 並んで歩く二人の間で、タルタリヤの白い左手がぼんやりと夜闇の中に浮かび上がっている。指輪が落ちないように薬指と小指はぴたりとくっつけられていて、少しだけ不自由そうに見えた。
 鍾離はそっと右手を伸ばし、その薬指と小指の間に自らの薬指を割り入れる。指輪が落ちないように少し支えてやりながら、外側から更に鍾離の小指で押し上げた。ゆるく指を絡めながら、鍾離は親指で掌を撫でる。
「……、ん」
 タルタリヤの掌に傷はない。鍾離の手袋越しではあるものの、凹凸は感じ取れなかった。鍾離の戯れに気付きながらも好きなようにさせているタルタリヤは、きゅ、と絡める指に力を込める。
「くすぐったいよ、先生」
 けれどタルタリヤは掌を撫で続ける鍾離を咎めない。それ以上は何も言わないで、手を繋いだまま夜の璃月を歩いた。
 鍾離が僅かばかり先を歩いて、鍾離の部屋に向かっていることにも、何も言わないまま。

 


2021.2.18