薄青のレースに縁取られた涼し気な白のワンピース。ギラギラとした太陽の日差しの下で、それは眩しく網膜を焼く。サングラスがなければ目を背けたいほどだっただろう。していてもこれなのだから。顔が険しくなった自覚をして、深田は溜め息を吐いた。
ボスが僅かな仕事のため、愛娘を可愛がるために世話役の深田まで連れてやってきた南国のビーチは、旅行中に泊まるホテルのプライベートビーチだからか人がまばらだ。もう少し離れた浜辺は山のように人が居たからか、こちらは随分と落ち着いて見える。
「深田、置いていくわよ?」
「分かってますよ」
おかげで傍目から見たら怪しく捉えられかねない幼い少女と強面の男の組み合わせでも通報されない、というのは救いかもしれない。サンダル越しに砂を踏みしめる感覚を新鮮に思いながら、深田は少女の少し後ろまで追いつく。
少女のお気に入りのリボンは赤から白へ、明るく清楚に。ワンピースは某ブランドのものとあって、見る者が見ればどこぞの令嬢かと思うことだろう。
事実、マフィアのボスの愛娘だ。溺愛ぶりが服装にも、娘の性格や振る舞い、纏う自信にもよく見て取れる。それはもう呆れるくらいに愛されているのだ、ああも育つだろう。
くるり。おかげさまで、振り向いた少女の悪戯っぽさと言ったら。
「ふふっ、よく似合ってるわよ、深田」
「……お褒めに預かり光栄ですね。お嬢のセンスの賜物です」
「からかい甲斐がないわ……」
「いい加減慣れますよ」
普段の行動を思えばむしろ可愛い方だろう。この程度で済むと思うとかなりマシだ。
深田は今、頭が楽しそうな現代の明るい若者たちのような星形のサングラスと、鮮やかな青時のアロハシャツを着せられている。ちなみにアロハシャツは全体的に黄色の南国らしい絵柄がプリントされたものだ。とんだパリピである。
悪戯好きのお嬢様からの指定という名の命令はこの二つのアイテムだったため、それ以外はぶっ飛んでいない至って普通のチョイスになっていた。
「でもあなた、案外サングラスは似合ってしまうのね……ハートにすれば良かったかしら」
「あんまり変わらないでしょう」
実を言えばこのサングラスのおかげでかなり眩しさが軽減されている上、持参していたものより厳つさが減っているため、この場に溶け込むにはかなり正解だったと思う。悪戯もたまにはこういう奇跡を起こしてくれるのだ。
頬でも膨らませそうな様子の少女の表情を窺いながら、さてどうするかと思案した。このまま機嫌を損ねてしまうのはよろしくない。あまり調子に乗りすぎないくらいに機嫌を保ちつつ、夜に仕事を終えたボスへと面倒を引き継がなければならないのだ。
やはりこういう時は話題の転換だ。本題を思い出させてやるのが一番良い。
「ほらお嬢、綺麗な貝殻を探すって言ってませんでした?」
「あっ、そうだったわ!」
せっかく連れてきてくれたんだもの、お父様を喜ばせたいの、と語っていた姿こそ、彼女の父に見せてやりたい表情だったように思うが。行きましょうと声をかけて歩き出す小さな背中から離れないようにしつつ、少女には聞き取れないように小さく呟く。
「健気なところは可愛いんだがな」
世話役というどうしても傍に居なければならない役回りを任されているせいか、それ以外のところでの凶悪さが凄まじいから、なかなか素直には認めがたいのが惜しいところだ。
「深田?」
「なんです? 前見ないと転びますよ」
「前から思ってたけど一言多いのよ、あなた!」
「光栄です」
「褒めてないのだけど!」
騒がしい子どもに構いながら、深田はぼんやりと世話から解放される夜のことを考えた。
日本で留守番をしている同僚たちが喜ぶ土産は、果たして予算内に収まるだろうか。
2022.6.27
